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止まる円安を追い風にできるか 間もなく発表されるニトリHD決算に期待すること

3月期決算の発表が進んでいます。米国では峠を越えましたが、日本はこれからです。小売企業で3月本決算の企業は、ニトリホールディングス、ゼンショーホールディングス、ZOZO、マツキヨココカラ&カンパニー、三越伊勢丹ホールディングス、丸井グループ、サンドラッグ、ヤマダホールディングス、ヤオコー、トリドールホールディングス、ワークマンなどですが、今回筆者が注目しているのは円安の修正が恩恵になる企業群、たとえばワークマンやセリアなどです。そのなかでもニトリホールディングス(以下、ニトリHD)の決算発表、およびその後の経営方針に注目をしています。

横這う株価、伸び悩む成長率

 ニトリHDに注目する背景は、株価が伸び悩んでいるためです。同社の株価は2024年に1%下落し、2025年に入りさらに10%下落しています(2025年5月2日現在)。より詳しくみると1~3月に20%下落し、4月以降切り返して上昇していますが、プライベートブランド(PB)を海外から主に仕入れる企業として類似しているワークマンやセリアの株価は年初来プラス圏にあることを考えると、物足りないと思います。

 次のグラフはその株価の長期推移(2014年12月末以降、月末値、直近は2025年5月2日)を示していますが、2017年あたりから株価が足踏みしていることがうかがえます。さらに、ここではお示していませんが、実は同社株の値動きは2021年から株式市場全体の推移に対してじりじり差を広げられています。似鳥会長にそろそろなんとかしてもらいたい、と多くの投資家が願っているのではないでしょうか。

 この背景としてまず指摘しなければならないのは利益成長の鈍化です。次の表をご覧ください。

伸び悩む成長率

 この背景としてまず指摘しなければならないのは利益成長の鈍化です。次の表をご覧ください。

(金額:百万円) 2014年2月期 2019年2月期 5年間平均年率成長率 2024年3月期 5年間平均年率成長率 2025年3月期会社予想
A B
売上高 387,605 608,131 9.4% 895,799 8.1% 960,000
経常利益 63,474 103,053 10.2% 132,377 5.1% 134,000
当期純利益 38,425 68,181 12.2% 86,523 4.9% 92,000

 これは2014年2月期から2019年2月期まで(A)、および2019年2月期から2014年2月期まで(B)の平均年率成長率を売上高・経常利益・当期純利益について算出したものです。ご覧のとおり、(A)から(B)にかけて利益成長率が2ケタ前半からから1ケタ中盤へと鈍化しています。成長率が半減したことになります。ちなみに、2025年3月期の会社予想も付記していますが、当期純利益においては拡大が兆しが見受けられるものの、経常利益の増加率は限定的とされています。

 直近5年(B期間)の利益成長の伸び悩みは、この間連結化された島忠の利益率が相対的に低いうえその利益が伸び悩んでいることが重要な要因の一つとなりますが、ニトリ事業の収益力低下要因も指摘しなければなりません。円安の進行(および製造原価の上昇圧力もあるのかもしれません)、在庫回転率の低下などによって売上高粗利益率が圧迫されていることが一番の要因と言えるでしょう。

円安修正が追い風になる!?

 しかし、同社は「製造物流IT小売業」を自らを標榜するに相応しい付加価値の感じられる製品を家具・ホームファッションのカテゴリーで展開しており、価格政策も柔軟かつ積極的に見受けられます。このため既存店売上高の推移をみると2022年2月期をのぞけば前年度比プラスを維持できています。

 また経費についても、人件費・物流費・光熱費などの上昇圧力があるはずにもかかわらず、売上高の水準から見て概ねよく管理されているという印象です。また、海外展開も着実に進捗し、東南アジアを中心に足場づくりをしているところです。

 したがって、急速な円安が一服すれば粗利益確保がやりやすくなり、増収と売上高純利益率の回復を伴った利益成長の再加速につながって不思議はないと考えます。

「売上高純利益率の改善」以外にも残る課題

 しかし、筆者は同社の株価が本格的に新しいステージに入るために、売上高純利益率の回復だけでは不十分だと考えます。

 次のグラフをご覧ください。売上高当期純利益率とROE(株価資本純利益率)を棒グラフとして左軸に、ROEを売上高当期純利益率で除した数値を折れ線グラフとして右軸にプロットしています。ここで確認したいことは、売上高当期純利益率が増加した場合、それが株主がもっとも注目する財務指標の一つであるROEにどの程度連動するのかという点です。

 ご覧のように、売上高純利益率とROEとのギャップが年々縮小していることが、黄色の折れ線グラフが右肩下がりであることからわかります。つまり、売上高純利益率が少し改善しただけでもROEの大幅改善するつながる、という期待感が乏しいわけです。

 2025年に入り、ドル円相場が円安修正が進んでいるにもかかわらず同社の株価の戻りが不十分に見えるのは、円安の修正が今後の売上高純利益率の押し上げ要因になるとしても、それだけをもってROEの顕著な反転上昇にはつながらないのではないかという疑念が投資家に残っているから、と筆者は推察します。

投資効果の可視化と株価資本の適正化も必要

(金額:百万円) 2014年2月期 2019年2月期 5年間平均年率成長率 2024年3月期 5年間平均年率成長率 2025年3月期会社予想
A B
売上高 387,605 608,131 9.4% 895,799 8.1% 960,000
経常利益 63,474 103,053 10.2% 132,377 5.1% 134,000
当期純利益 38,425 68,181 12.2% 86,523 4.9% 92,000
現預金 21,973 102,345 36.0% 137,943 6.2%
有形固定資産 177,366 302,041 11.2% 736,897 19.5%
総資産 321,701 619,285 14.0% 1,238,677 14.9%
純資産 247,896 500,192 15.1% 896,308 12.4%

 この要因を示すのが次の表です。すでにご覧いただいた損益計算書にかかわる数値に、貸借対照表の数値を加えてみました。

 期間Bに注目してください。損益計算書項目である売上高、経常利益、当期純利益の成長率に対して、貸借対照表項目である有形固定資産、総資産、純資産(ほぼ株主資本と同じ)の成長率が大きいことがわかります。この間、島忠の連結がありましたが、その連結後も有形固定資産、総資産、純資産が大幅に伸びています。

 この表の意味は次のようになります。

• 同社の利益は成長を継続しているものの、その成長率は鈍している

• 一方、純資産・株主資本の増加率は利益成長率を上回る。その結果ROEの分母の伸びが分子の伸びを上回る基調になっている

 これがROEが漸減基調にある原因といえるでしょう。しかも

• 純資産の増加に合わせて有形固定資産を主体に総資産を増やしている。おもに国内物流網再構築のために在庫保管型物流センターの新設と思われる

• しかしこれが売上高の押し上げや、利益率の改善につながっていないように見える

• ゆえにこうした投資の成否について現時点では肯定的評価を下せない

 ということだと考えます。

 そこで少なからずの株主・投資家は次のように考えているはずです。

• 積極投資は好ましいとしてもその投資成果の可視化を求めたい

• 投資採算評価が緩んでいるかもしれないので、純資産の増加率を抑制し、その効果として今後の投資に一定のキャップを設けた方がよいのかもしれない

• ゆえに、配当性向(年々の純利益のうち内部留保にまわさず配当行う金額の割合)を現状の15-20%から引き上げるべきだ。

2025年3月期決算発表において同社へ期待したいこと

 ちなみに、2025年3月期の業績に推移についてみておくと、第3四半期累計実績は売上高7049億円(前年同期比+6.2%増)、経常利益1032億円(同+2.0%増)、通期会社予想は売上高9600億円(同+7.2%増)、経常利益1340億円(+1.2%増)となっています。バランスシートの構造も変わっていませんので、損益がこの通りで推移しているならば、先ほどまで見てきた同社の課題は2025年3月期通期決算においても解消されてはいないと見られます。

 従って、来る決算発表ではぜひ同社には、売上高利益率の改善と資産・資本効率の改善に関して従来よりも積極的な表明を期待したいと考えます。

具体的には、以下の諸点です。

• 中期的な増収計画(とくに内外出店計画と既存店売上高強化策)を従来よりも詳細に提示すること、これに付随して売上高利益率の改善と資産・資本効率の改善を伴ったROE再浮上の道筋を示すこと

• これまで進めてきた物流センター投資の投資効果に関する示唆

• キャピタルアロケーションプランの提示(営業キャッシュフローの見込み、投資計画、現預金の活用および負債調達のめど、配当性向など株価還元のありかたを包括的に提示すること)

• 円安が修正された場合に着実に原価率を改善できる商品・価格・在庫管理戦略、および円安再進行を念頭においた為替リスク管理高度化策

• ニトリ国内、ニトリ海外、島忠それぞれに関するKPIの開示と、各事業において目指すべき事業効率のめど

 トランプ関税は対米貿易に依存するアジアに影響が大きく、同社の進出先の消費動向に影を落とすかもしれませんが、進出を進めるには良いタイミングにもなり得ます。同社にとって海外展開のアクセルを踏み込むタイミングが近づいているとも捉えられます。

 従って、上記のような材料が揃えば「ROEの再浮上開始、続いて海外事業の本格的な業績寄与」という美しいエクイティーストーリーが実現性の高いものとして投資家に受け止められ始めると考えます。

 筆者は少し前にできた同社の居抜き店舗に出かけることが大変楽しいです。バリュー感のある家具、家具とのコーディネーションに悩む心配のないホームファッション、家電や電動家具などの新しい提案などをじっくり堪能できるからです。競合対策としてみても、訴求力のある商品が増えていると感じます。ROEの再浮上を実現しつつ、海外展開にいよいよアクセルを踏むとなれば株価も新しいステージに入ることでしょう。次の決算説明会がたいへん楽しみです。

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