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テナント賃料は高いのか安いのか、不動産から考えるアパレルチェーンの出店戦略

半世紀に渡るコンサル人生で多くのアパレルチェーンと商業施設に関わってきたが、小売業と不動産業という投資回収サイクルの違いもあって同床異夢のすれ違いを痛感することも多かった。小売業の店舗損益と出店戦略、不動産業の事業損益と投資回収という異なる両面からアパレルチェーンの出店を考察してみよう。

アパレルチェーンの賃料は高いのか安いのか

 コロナ下では、営業自粛や客数減で売上が激減して最低保証家賃の負担に苦しみ(大手デベロッパーは減免するケースも見られた)、コロナが明けても温暖化の急進で秋が消滅して9〜10月の売上減で最低保証家賃の負担がのしかかるなど、アパレルチェーンにとって、賃料負担は高騰する人件費とともに利益を食い潰す重荷になっている。果たして賃料は高いのか、それとも安いのか。

 大手アパレルチェーン各社の直近本決算から売上対比の賃料負担率を探れば、下はファーストリテイリングの3.8%から上はハニーズの21.0%まで5.5倍もの差がある。その背景には、店舗規模の大小と出店形態の違いが指摘される。

 国内ユニクロの店舗が平均1048㎡で9億9254万円を売り上げるのに対し、ハニーズは平均227.4㎡で6476.4万円を売り上げるに過ぎず、1㎡当たり販売効率もユニクロの95.2万円に対してハニーズは28.5万円と3掛けにとどまる。1人当たり売上高は、ユニクロの3844万円に対してハニーズは1671万円と半分にも及ばない。

 それでも実際に負担している平均月坪店舗費(賃料+減価償却費)は、ハニーズの1万5033円に対して国内ユニクロは推計2万3300円も負担しているから、商業施設デベロッパーにとっては売上や集客はもちろん、賃料面でも有難いテナントだ。奥行き4スパンも使ってくれる大型店でそんな賃料を払ってくれるテナントは、ほかには見出せない。外資系の大型アパレル店はユニクロより格段に販売効率が低く、ユニクロの半分程度しか払えないし、さらに販売効率が低いインテリア系の大型店は3分の1ほどしか払えない。

 ファーストリテイリングの連結決算では、売上対比の賃料負担率は3.8%と計上されているのに減価償却費(物流施設なども含む)も含めた費用負担は9%前後と推計されるのは出店形態が違うからで、地代を払って自ら店舗を建てる定期借地の路面店舗の比率が高い故と推察される。ほとんどが定期借地契約の路面店舗であるしまむらはもっとわかりやすく、平均1010㎡で2億9717万円を売り上げる店舗の売上対比店舗費率は5.9%に収まっている。月坪当たりは4756円、賃料だけ取れば4014円と計算できるから、飛び抜けたローコストだ。ちなみに、テナント店舗が大半を占めるアダストリアの平均月坪店舗費は3万9602円で負担率は14.3%、賃料だけでも月坪3万1393円と計算できる。
 
 日本ショッピングセンター協会の24年のSC白書によれば、22年の小売売上対比賃料率は総合徴収型(賃料と共益費一括)の物販で平均12.13%。過去10年間の平均は12.56%だった。これは地方や郊外の中小型商業施設まで含んだもので、大型モールではイオンモールが17.6%(25年2月期)、駅ビルではJR東日本の「ルミネ」が19.7%(24年3月期)と計算できる。一般に客数の多い好立地施設ほど販売効率は高くなるが、賃料はそれ以上に嵩むから、売上対比の賃料負担率は好立地ほど割高になる。

高騰する人件費とともに賃料負担がアパレルチェーンの利益を圧迫している(写真はイメージ)

商業施設デベの損益と投資回収

 賃料負担が重いテナントから見れば、「商業施設デベロッパーが儲けすぎではないか」と訝りたくもなるだろうが、商業施設デベの立場になれば「儲けすぎ」という指摘は当たらない。

 大手商業施設デベロッパー4社の直近本決算を見ると、売上(商業施設事業では大半が賃料収入)対比の営業利益率は大和ハウス工業の10.1%から三井不動産の14.2%までで、諸経費や税金を差し引いた純利益率はイオンモールの3.2%(24年2月期は4.8%)、大和ハウス工業の6.0%、東急不動産の6.7%、三井不動産の9.5%と、「儲けすぎ」というほどではない。イオンモールをのぞけば、オフイス賃貸事業や分譲事業、ホテル事業や建設事業なども含むため商業施設事業だけの損益ではないが、純利益率は商業施設デベロッパー専業のイオンモールが格段に低い。他の3社も商業施設事業だけ取れば、連結決算の利益率より低いと思われる。

 投資利回りに相当するROA(総資産対純利益率)は、イオンモールが0.9%(24年2月期は1.2%)、東急不動産が2.4%、三井不動産が2.5%と意外に低い。大和ハウス工業が4.6%と突出しているが、分譲や建設などの事業も含むから、簿外の含み益は別として各社商業施設事業の投資利回りはせいぜい2%前後と見るべきだろう。国内リート(REIT)の直近の平均分配金利回りが5%強だから(基準価格の低下リスクはあるが)、商業施設デベロッパーが高い賃料を取って儲けすぎているというのは店子のやっかみに過ぎないようだ。

 ちなみに、賃料を払う側の大手アパレルチェーンのROAはアダストリア7.2%、しまむら7.4%、ハニーズ9.6%、ファーストリテイリング10.4%と商業施設デベロッパーより数倍高いが、資本装備が軽く(=労働集約性が強い)投資回収サイクルが速いからで、資本装備が重く(=資本集約性が強い)投資回収サイクルが長い不動産業と同一に比較すべきではない。小売業は労働集約性が強い分、給与水準が低くなりがちで、不動産業は資本集約性が強い分、資本効率が低くなりがちという体質の違いがある。

同じ商業施設内の賃料格差と区画選択

 自店の賃料が高いのか安いのかという比較は、同じ商業施設の中でも当然にある。商業施設を再活性化するには、館全区画の売上と賃料収入を検証して課題を洗い出し、売上と賃料収入を最大化するゾーニングとテナント配置を設計するのが起点となるが、物販店の月坪当たり賃料は位置と区画形状で上下10倍近い開きがある。立地にもよるが、郊外大型モールの場合、5000〜6000円をボトムに5万〜6万円がトップになる。

 なぜそんなに開きがあるかと言うと、①基準階(多くは1階だが駅とデッキで繋がる場合などは2階か3階)メインモールの一等地と上層階の昇降動線から離れた区画やサブモール面といった区画位置②メインモール内の島区画や奥行きの浅い区画と間口に対して奥行きの深い区画、とでは当然に販売効率も賃料も異なるからだ。

 入店客数は区画前を通行する人数と接道面長にスライドするから通行客が多く接道面が長いほど有利で、標準的な間口1スパン×奥行き1スパンの区画の単位賃料を1とすれば、メインモール内の島区画はπ(3.14)倍、メインモール面の2スパン目は0.8、3スパン目は0.6、4スパン目は0.4という計算になる。間口も奥行きも4スパン使ってくれるユニクロのような大型店は奥行き割引だけで単位賃料が7掛けに下がるし(区画形状によってはそれ以上に下がる)、準核店舗扱いになると売上対比の基準賃料率も8掛け、6掛けに優遇され(食品スーパーはさらに低い)、売上金の直接収納も可能になる。
 
 ダウンタウンのビル型商業施設ではフロアの広さや昇降動線にもよるが、基準階から1階上がるごとに6掛け、6掛け、あるいはそれ以上に落ちていくケースも見られるから(4、5階当たりでオフイス賃料と逆転する)、郊外の計画的な大型モールのレイアウトとゾーニングは立体駐車場棟との接続も含めてよく出来ていると思う。

同じ商業施設内でも物販店の月坪当たり賃料は位置と区画形状で上下10倍近い開きがあるとされる(写真はイメージ)

 売上対比の基本賃料率は、個別徴収(賃料と共益費を分けて徴収)ならどの商業施設も一般の物販テナントはおおむね10%だが、位置と区画形状、業種の販売効率と粗利益率によって最低保証売上が大きく異なり、それによって販売効率の格差が賃料率の格差に増幅されてしまう。最低保証水準の高い都心の駅ビルなどでは、好調テナントと不調テナントで結果的な売上対比賃料率は倍以上も開く。

 月坪当たり賃料水準も売上対比賃料率も格差が大きいが、商業施設内の位置や区画形状による合理的な格差、テナントそれぞれの販売力と出店政策(区画選択)によるものであり、恣意的な差別とは言えない。勢いに乗って有利な区画や賃料条件を勝ち取るチェーンもあるが、好区画獲得は高めの最低保証を伴い、一度人気が離散して販売効率が落ちれば賃料負担率が跳ね上がり、店舗を維持できなくなるリスクがある。

 安めの賃料がよいとも限らず、最低保証が高くてもモールの一等地を選択するチェーンもある。結果として高い販売効率を維持して最低保証に抵触する月が無ければ、売上対比の賃料率は基準に収まり、売上が固定費用を大きく上回って高収益が得られる。逆に、最低保証の低い上層階の2等区画を選択するチェーンもあるが、客数が少なく販売効率も低位にとどまり、端境月では低い最低保証でも抵触して賃料負担が嵩み、低収益に甘んじるケースが見られる。区画の選択もテナントチェーンの出店政策であり、個別の状況に流されず一貫することが大切だ。

「面」「線」「円弧」のドミナント出店戦略

 出店は個別物件ごとに対応するのではなく、最初に各リージョナルを押さえる店舗布陣の青写真を描き、優先するリージョナルから物件を確保していくべきで、個別案件に点で対応してはマネジメントもロジスティクスもコストを逸脱してしまう。どうしても押さえておきたい物件が点で発生する場合は、自社で契約して店舗を開設し、ドミナント布陣する段階まで現地の販売代行業者に運営を委託するという選択もあるだろう。

 ドミナント出店布陣の定石は、①マーケティング、②マネジメント、③ロジスティクスの3点から「面」で布陣するか、「線」で布陣するかの選択になる。ローカルTV広告や店舗軸SNSなどのマーケティング、店舗要員の採用やシフト運用、デベ対応などのマネジメント、ローカルテザリング※1やシーズン末の集約売り切り、店舗軸OMO※2などのロジスティクスを計画すれば、ローカルでは「面」布陣になることが多い。だが、鉄道網が発達したメトロエリアでは、沿線別に「線」布陣したほうが合理的だし、同質の郊外マーケットをカバーするには16号線圏や武蔵野線圏など「円弧」布陣が適切な場合もある。

※1 テザリング⋯⋯店舗間で在庫を融通して在庫効率を高めるローカル・ディストリビューション手法で、サイズ在庫負担の大きいABCマートや紳士服チェーンでも活用されており、近年では修理加工の集約やOMOの店出荷・店受け取りと連携されるケースも見られる。
※2 OMO(Online Merges with Offline)⋯⋯ネットと店舗の垣根を超えた連携を意味し、ショールーミング(店舗からネット)による情報取得で店舗やネットの購入を促進したり、ウェブルーミング(ネットから店舗)による店取り置きや店渡し(BOPIS)、店出荷で顧客利便と在庫効率を高め物流コストを抑制するリテール戦略。

小島健輔(小島ファッションマーケッティング代表)

 そんな布陣方式が定まったとして、各リージョナル/エリアの中にどのような性格の店舗を配していくのかが問われる。通常は、最初に中核となる都市の一等地に地域顧客に浸透するためのブランディング店舗(いわゆる旗艦店)を布石し、次に地域内の性格が異なる各商圏に標準店や量販店舗(集約売り切りを担う)を配してドミナントを形成していく。リージョナルロジスティクスでローカルテザリングやローカルOMOを仕組むなら、在庫を抱えて近隣店舗に補給したり、ローカル顧客のEC注文品を店出荷する家賃の安い大型の路面店が不可欠になる。

 アパレルチェーンの出店というと、テナント出店がデフォルトのように思われているが、店舗費(賃料と減価償却費)負担を軽減するうえでも、ローカルテザリングやローカルOMOを仕組むうえでも、一定数の路面店舗は必要で、各地域に店舗布陣する時に配慮するべきだ。フリースタンディング店舗とは限らず、ダイレクトパーキング可能なパワーセンターやストリップセンターも選択の対象になるのではないか。

 

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